月の美しい夜、任務後どうも寝付くことが出来なかったのでナルトはひっそりとした森の中へと足を運んだ。
 睡眠、というものは人間が生きていくのに酸素・水などといったものと同等で不可欠なものだ。
 眠ることもたいして欲することもせず、苦にならない自分はやはりどこか違う、人間ではないのかもしれない。と、時々気が伏せてしまい、わが身に強制的に囚われている禍々しい獣を怨む。

 そんなナルトの意思を察したのか、腹の中から嘲笑う気配がする。



 月のおかげで今夜は視界が晴れる。
 雲ひとつ無い夜空は光を遮られるものがないため、その柔らかな光は美しくナルトの髪を浮かび上がらせ、一本一本がきらりと反射していた。
 忍に向かぬ派手な色を持ったこの髪も、普段は煩わしいが今夜はなぜかそれが気分がいい。
 月の光を浴びて湧き上がるものを感じるのは、はやり自分が妖の一端であるという照明なのかもしれない。

「滅入った顔をしてるな、また下らない考え事か?」
「・・・そんなこと」

 響きのいい低音の声にナルトはほっと溜息を付きながら振り向いた。
 気配を探ることも無い、月の美しい夜には森に来るとお互い暗黙のうちにそれを行っていた。
 姿を現したのは細身だがナルトより頭一つ分高い背丈の全身黒の男だった。
 項で束ねたさらさらの髪が風に煽られ柔らかく波打っていた。
 黒装束ということは任務の直後というところだろう。
 しかしその衣服や肌に傷はもちろんのこと汚れも付いておらず支度を整え家から出てきたばかりのように見える。
 それだけの実力者というわけだ。

「なんとか間に合ったな」
「俺も来たばっかりなんだけど」
 隣りに立ち微笑んだ男にナルトもそっけなく答えた後、ふわりと笑む。
 右肩に相手の温もりを感じたような気になり、精神が弛緩する様に安らいだ。
「里外から帰ってきたばかりなんだろ?お疲れ」

 隣りに立つのは、上層部、暗部の面々に黒煙と呼ばれある意味崇められている実力者だ。
 しかし、今隣りに立つ男はしがらみは何をも捨て置いて、幼い頃からナルトと親しんだうちはサスケ。偽ることも無い、ただナルトを思って傍にいてくれる。

 しかし、かすかに匂う火薬や血の匂いが、ナルトの心を重く沈め締め付ける。
「余計なことは考えるな。」
 相変わらずのすかしたような顔で、サスケはナルトを横目で見つめ微かに笑んだ。
「俺が何をしていようと、お前が何をしていようと、それが俺達の何を壊すというんだ?」
「何も・・・。」
 それは小さな傷にもならぬ、ただただ煩わしいだけの気の迷いだ。
 ナルトはサスケが死なないことを知っている。ただ、じぶんがそう信じているだけだ。それはサスケも同じことだろう。
 しかし、心のどこかでソレを恐れているのだ。
 この依存さえも怖い、その気の迷いがいつかお互いを深く、取り返しが付かないほどの傷を負わせ裂いてしまうのではないかと。

 冷えるな。とサスケが小さく呟いた。
 硬い手がナルトの手を取り、緩く繋がれた手はもと来た道へと引っ張る。
「だから、こんなに綺麗に月が見えるんだ」
 名残惜しそうなナルトの言葉に耳を貸さず、サスケは大またで歩いていく。
 黒い髪が垂れ下がる、黒い大きな背中。
 ナルトは歩を挟めその硬い背中に自分の額を押しつける。
「明日は誰を殺そうか」
「知るかよ。そんなの火影様が決めてくれるだろ」
「ひどいやつ」

 押し付けて、押し付けられて、ただ自分達は、ただただ無情に。

 ナルトは自分の金の髪がサスケの背中と黒い髪に擦れてくしゃりと鳴るのを聞きながら、遠い空を見上げた。
 明るく照らすこの月が。柔らかな光が。

 やけに恨めしく切ない夜だった。



ナルトの相手役を最後まで兄と弟どちらにしようか考えましたが
結局王道(?)サスナルに落ち着きました。
まあ、ぶっちゃけ自分内王道なんですがね!
20080310

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