彼の右手に、手を重ねてみた。 一瞬の震えを掌に感じ、小さく笑む。 ここは小さな孤島。小さな世界。 小波の音はただ胸に染み入るようで、二人で砂浜に直に座りながらどこまでも続く蒼い海を見つめた。 心境の所為なのか、それは、少しくすんでいる。 いいんだ。 ただ君だけが鮮やかにこの目に映りさえすれば。 シリスはお互いの肩を触れているテッドを見つめる。 テッドは静かに傍らのシリスを見つめる。 水晶の瞳が静かにかち合う。 ああ、何よりも透き通った青い瞳。この海よりも。 生き疲れる、と思ったのは激しい波の音に脳を揺さぶられたような時だった。 目の届かない大きな海を行く、船の中で激しく泡を立てて轟く海を見たとき。 隣にいる、その顔を見たときに。 切なくなった。 一瞬でお互いがなんて切ないのだろうと感じた。 命を削る行為が、戦い勝ち取るこの行いは、誰のためではなく世界のためでお互いのために動くことができない自分達に苦悩した。 だからだろうか。 僕等は血迷ったのだ。 きっと。 シリスはゆっくりとテッドの肩に凭れる。 微かな香りは、石鹸と海の香り・・・・・それとも戦いで塗れた拭い切れない血液か。 こんな言葉の要らない穏やかな、空虚な時間が欲しかった。 微動だにしないテッドに小さく笑う。 シリスの頭が肩からずれないように気を使っているんだろう。 分かっている。そんな君が、とても愛しいんだ。 「冷えてきたな。」 掠れたテッドの声が言った。 空は遠くに紫の空がちらりと窺うようにオレンジの向こうに顔を出している。 そのどこかにきらりと瞬く一番星を目を凝らして探した。 「涼しいの、好きだな・・・」 ゆっくり言ったまま、シリスは動かない。 肌寒ければ寒いほど、君の体温を欲していると理由をつけてこうして触れていられる。 それを恋しがることでそんな特権を得られる。 紫に侵食される橙、紫を蝕む濃紺。闇に輝く最後の慈愛のような月と星。 それらが頭上を占めるころ、テッドがようやくシリスの頭を手で支え肩から外し、立ち上がる。 ゆっくりとシリスの手を優しく掴み、立ち上がるように促す。 いつまでも座り込んでいた所為か足元が危うい。 シリスはいつまでも見つめていた広がる海からゆっくりと目を逸らし、切なそうに笑む。 「僕達って、極悪人だね。」 「・・・・・・。」 「みんな捨てて、逃げて来ちゃうなんて。最低だね。」 でも。 繋いだ手を大きくこちらに引き、緩んだ足元の所為かテッドの体は砂浜に落下する。細かいさらさらとした砂が舞った。 起き上がらないで。 砂の上に横たわったまま、声を出さずに言う。 指を絡ませあい、ゆっくりと口付ける。 深く絡め合う。ざらりと歯に砂が擦れようとも気に留めない。息継ぎが苦しくなり、忙しなく呼吸を、でもそれよりも貪りたい。 様々な欲求が弾けたようで、思考がじんわり脳を蕩かす様。 砂を混ぜ合わせる様に動きながら、触れてゆく。髪をかき混ぜ、緩んだ赤い布が波に連れられて行ってしまう。 視界の隅に、蒼を鮮やかな、しかしくすんだ赤が漂う。 手を伸ばそうか、そう迷った手はしかし逡巡した後にテッドの背に触れる。 脳裏に残響した様々な声たちが、ゆっくりと退いて行く。波の音と共に。 ああ。 最後の糸がゆっくりとほつれてゆく。 2007.9.24 逃げてしまったヘタレ二人。 本編蔑ろにしてて土下座ものですね!(切腹 実は4000リクにと書き始めたんですがまったく脱線してしまい、没に。 |