まあ、だって、ぼくらは違う生き物だから 揶揄でもなんでもなくね、人々とは違う生き物であるから 愛情に飢えて、だから、 だから僕らと僕らで愛を分け合った レプリカ。 被験者から譜業を通して生み出された知能のある第七音素の塊。 その心臓は確かに動いているし、呼吸もしている。一応考えることも出来る、一応意思もある、喋るし見るし聞くし触れる。 ほとんど人とは変わらないため、思考してぬくもりもあるイキモノだ。 でも、人ではない。 だからこそ忌み嫌われる。だから殺されてしまう。 ルーク、という立場に立たされたレプリカはだから思考する。 イオン、という立場に立たされたレプリカはだから思考する。 シンク、という名を与えられたレプリカはだから思考する。 お互いにはお互いしか無いということを。 だから、ぼく等は僕らで愛を分け合う。 この世にレプリカが溢れるようになってから、ルークはその心がざわりざわりとざわめくのを耳の奥で聞いていた。 それはついこの前知った海の音、潮騒に似ている。 身の内がそんなふうに騒ぎ立てて、ルークの気持ちを落ち着かせぬのだ。 ルークは世界のために〈同族〉を殺している。 鍛えられたごつい刃の付いたそれを振り回す。切れる。潰れる。血が噴出したかと思ったらそれはすぐに光の粉のように空気に融けた。 産み出されたばかりの彼らは赤ん坊と変わらないようなものだという。 ルーク自身、自分自身も屋敷に連れてこられたばかりの頃は、その容貌にそぐわずまるで赤ん坊のような振る舞いだったのだと聞いたことがあった。 彼らも、かつてのルークとは違い考え喋り歩き武器を扱えるがルークと何も変わらないのだと言う。 分かる気がする。 無表情のその向こう。瞳の奥にはまるで無垢な光が見えるような気がしたのだ。 だからルークはちんけな罪悪感に押しつぶされそうでその刃を下ろすとき、ついその目をそらしてしまう。 ああ、ずるい。 なんてずるい自分だろう。 時々軽い頭痛に苛まれ顔をしかめつつ瞼を瞑ると、その黒い裏には優しい緑の目が浮かぶのだ。 どこかで自分は彼をも殺している。 わかってしまったのだから仕方が無い。 これが同族ゆえの繋がりなのかもしれない、と思うとなぜか嬉しかった。 彼とほんの少しの絆がそこにあるのならば、イオンにとってこの上ない喜びだった。 朱色の髪が、あの白い裾と一緒にひらりひらり揺れる度に胸が高鳴る。 被験者からのコピーの際の劣化の一つだと言う色素の抜け行く朱金の髪は、それはそれは美しい至宝のように感じる。 レプリカ故の劣化だと蔑むのなら、イオンは彼と同じレプリカとして生まれたことは何よりも幸せなことだと思う。 美しい彼と同じ。 それ以上の幸福などあるはずが無い。 表情とは裏腹に虚ろな瞳で一心不乱に剣を振るうルークを遠目に見つめて、そして憎く思った。 彼の輝きを損なうものなど、この世から消えてしまえば良いのに。 ねえ、君もそう思うでしょう? 「その通りだよ、イオン。」 風と共に聞こえてきた優しい声にシンクは溜め息交じりに頷いた。 仮面の下の瞳は冷たく眇められている。 見えない世界、その壁を突き抜けて描いているのは美しい朱金の青年だった。 下らない被験者共に苦しめられているシンクの同族。 同士、同志、家族、兄弟、愛しい。 先ほど、光の無い目で自分を見つめてきたあの表情を思い出す。 ざわめく心に我を無くしそうになった事をシンクは思い出した。なんて苦々しい記憶。 それよりも思い描きたいのは彼の笑顔だった。 しかしそんなものはただ一度も見たことが無い。 全ては彼を取り巻く被験者の所為だ。 押し込められ、迫害され、自由を許さずその意思さえも取り上げる。 自分勝手な枠に柔軟なルークを押し込んだ。 美しい朱金の髪が散ったのを知ったときの喪失感は、シンクの心を深く傷つけた。 シンクと彼が同じくする少年が慈しんだものがだんだんと失われているその恐怖に、狂いそうになる。 今すぐ全力で被験者を嬲り殺してやろうかと思ったことは一度や二度ではない。 ねえ、だからさ、 「攫わしてよ、ルーク。あんたを」 そう言ってその手を掴みながら見上げた瞳は確かに喜びを孕んで輝いていた。 甲高く、喧しく上がったはずの他の(被験者の)声なんて聞こえない。 だって僕らは、その目を、その姿を、見たときに既に知ってしまった。 同じ。僕らには僕らしか居ないって事を。 僕らは僕らを愛している。 自発的なこの愛は、どんなに悲しいものだとしても。 僕らを満たせるのは僕らだけ。 後半がヘテロ失楽園ぽい感じになったね 20100123 novel |