僕は一度通ってきた森の道を、今度はレリアスと二人で戻っていた。
 レリアスは村に着くまで色々話をしてくれた。
 リリスの森での暮らしや、友達の魔法使いのこと。他にもいろいろ。でもケシュにどんな用事で会いに行くのかだけは教えてくれなくて、後でのお楽しみだよ笑うだけだった。

 そしてケシュの住んでいる小屋に着いた。

「今晩和」
 レリアスはそう言い、コンコンと小さな音を立ててドアをノックした。
 しばらくして、ドアがぎぃっと開いた、
「今晩和」
「ああ」
 ケシュは無表情のまま正反対に笑っているレリアスを見つめた。
 いつもはローブを深くかぶっているが、今晩は下ろしている。
(ケシュの髪、初めて見た)
 僕は初めて見るケシュの黒い髪を見て目をまるくしていた。
「入りたまえ」
 ケシュはそう言い、僕には目もくれず小屋に入って行った。

 ケシュの小屋の中は暗くて狭くて、もっといろいろな怪しげな研究とかにつかうような機材があるのかと思っていたが、意外とあっさりしている。と言うより物はとても少なかった。
「頼まれていたもの、昨夜出来上がった。」
 ケシュは言い、レリアスに向き合った。
 レリアスはにっこり笑い、「そうですか」と微笑んだ。
 僕は全く意味がわからなかったけれど、それにかまわずケシュは小さな小物入れから何かを取り出した。
 一瞬蓋を開けた時に光が溢れ、僕はそれをドキドキしながら見ていた。
「ねえ、レリアス。これって一体なんなの?」
 レリアスはケシュから小箱を受け取り、手でギュッとしてから持っていたから僕はそれが何かわからなかった。
 レリアスも少し意地悪そうに笑っている。
「まだ完成品とは言い難いが、彼の要望はこの程度で賄えるだろう。」
「そうですか。ご苦労かけました。」
 レリアスはケシュの言葉ににっこりと頷き、頭をペコリと下げる。僕の存在は全く無視されたままだ。
「ねえ、レリアス」
 急かすようにレリアスの片腕を引っ張る。
「しょうがないなあ」
 レリアスは困ったような笑顔でケシュをちらりと見る。やっぱり、僕は無視されてる。
 レリアスの視線に、ケシュは軽く頷いてからそっぽ向いた。
「これが、錬金術師、ケシュの研究ですよ」
 そう言って、レリアスは僕の目の前で光るものを持った手を開いた。
「わぁっ!」
 眩しいほどの薄い青の光がレリアスの手のひらから、正しくはレリアスの手に持つ小ばかの中から放たれた。
「これ、なあに?」
「これは、青空の水晶。」
「青空の水晶?」
「そう。狭い範囲では、綺麗な青空を作り出すことが出来るんだよ。」
 レリアスの金の髪が青い光に照らされてちらちらと光っていた。
「近頃リリスの森には頑固な台風がやって来てしまってね。なかなか青空を覗かせてくれないんだ。台風もリリスの森から退く気はないと言い張ってしまって。」
 とっても困っているんだよとレリアスはあまりそうとは尾もw無いような微笑を浮かべた。
「だからこの青空の水晶を?」
「ええ。そうだよ」
「まだ未完成だがな。まあ結晶化に成功したのだから、完成は目前と言って良いだろう。」
 ケシュの言葉にレリアスは嬉しそうに笑った。
「それはすごい。完成品ができたら是非僕にも見せて下さいね」
 ケシュは頷いた。


 僕とレリアスはまた薄い緑の光る道を歩いていた。
「ねえ、レリアス。」
「なに?」
「あのさ、また今度、遊びに来る?」
 僕は再度たどった道を戻りながら、レリアスに聞いた。
「もちろん」
「ねえレリアス。そしたら僕と友達になってくれる?」
 レリアスはキョトンとしたように僕を見つめた。
 そして、にっこり笑う。
「僕らはもう、友達でしょう?」
 僕も、レリアスにつられて、もちろんうれしかったから・・・いっぱい笑った。

 こうして僕は新しい友達ができた。
 不思議な夜に、
 不思議な出来事に、
 不思議な水晶に、
 不思議な森で、
 不思議な出会いをした、
 不思議なエルグの少年と。

 僕は友達になった。


 僕は泉のところでレリアスと別れた。
 レリアスはケシュの作っている青空の水晶が、青空になるときに来ると言っていた。
 そして自分の住んでいる森に帰って行った。
 僕はそれを見送ると、最初の目的どおり泉で水を汲んだ。
 そしてまた森の帰り道を歩いている時、夜が明けた。
 眩しい光が、綺羅綺羅と葉を照らし、道を照らし、森全体と村を照らした。
 僕は生まれて初めて見る夜明けを森から見ていた。



 
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