其の六


過激描写を含みます近親相姦などに嫌悪を抱く方は閲覧を控えた方が良いかもしれません




 深としたこの地には、飢えて何も満たされることの無い哀れな者が死んでいた。

 生きてさえ居ない、可哀想な獣。
 それは美しい雌獣、それともただの化け物だったのか。
 美しい絹の黒髪が艶やかな肌を滑った。月の白い光に照らされたその青白い肌は毒の様に見たものを魅了するように妖しく浮かび上がっていた。
 兄様、とその蕾のような艶やかな唇が紡いだかは本人すらも分からない。

 飢えているのだ。
 満たされたいと思いながらも、しかし果てを知ってしまうのは恐ろしい。
 幼さの裏に垣間見る、欲望を。
 彼女も彼も止めることなど出来ないのに。

 なぜ足掻くのだろう





「答える必要って、ある?」
 ナルトは青い瞳を細めて目の前の男を見つめた。
 白い男。何もかも白すぎる、哀れな傷に心までも引きつらせているような男。
 深い瞳がひどく澄んでいる。なぜだろうか。考えても仕方の無いことなのだろう。
「無いな。」
「だろ?」
「だが、この土地にいずる者が何者か、俺が知ってもいいと思うだろ?」
 そんなの勝手だ。ナルトはそう思ったが、それを表には出さない。未だ男にどう対応すればいいのか分かりかねていた。
 凪いだように静かかと思えば先ほどの剣戯のような立回り。仕留めるのは簡単だがしかしまだ知りたいことはある。
 ならば生かしておこう。そして、それを彼も考えているのだろう。
「月下と、呼べ」
 先手を取って男が名乗った。
 月の下。その白い風貌は確かに月の下の照らし出された真白のようだった。しかし孕む、微かな影を嫌悪する。そんな白。
「俺は、そうだな。禦侮と呼ばれている。お前もそう呼べば?」
「俺は本名を晒したと言うのにお前は通り名だけか?」
 憮然としたように、しかしからかう光を以って月下はナルトを見た。
「忍びが簡単に手の内晒してどうすんだよ」
 見下げるようにナルトが笑う。
 その通りだな、と月下は静かに笑った。
 月下は忍びではない。隠されたこの地でやはり隠された宮に妹と共に身を寄せていただけだった。特別な存在として崇めたてられ、そして精神の成熟よりも優れた子孫を作るためだけにその身体能力を磨かれた。

「たしかにな。禦侮、お前に頼みがある」
「頼み?」

「俺には為さなければならないことがある。」
 じっと見られたナルトは、ふぅん・・と小さく頷きそ知らぬ様に顔を背けた。
 目線の先は闇だった。

 月下もそれを見つめたがなにも見ることは出来なかった。
「月の上姫を殺す。」
「その手助けを俺にしろって言うのか?勝手だな」
「分かっている。だが、それがお前の目的への近道になるかもしれないぞ」

 だってお前はここへやって来たのは一族皆殺しの真を知るためなのだろう?
 そう言って月下は酷く繊細な表情をして笑った。
 押しつぶされそうなその笑みは、潔白を淀みに犯される、境が崩される、硝子細工が砕かれる、そんな寸前の笑みだった。

「俺が殺したんだ、同胞全て。」
 からりと、乾いた声で月下が言った。
 ナルトはちらりとその表情を青い瞳で見やった。
 月下の顔はただただ静かだった。
 言葉と同時に月下は目を閉じていた。白い瞼は光を弾き、鋭いが美しい横顔が月に照り浮かび上がるかのように光っている。
「この一族の狂う始まりは、ある美しい女からだったと言う。そして俺の目の前に現れた狂気の始まりは、あれが、月の上が姫に成ったからだ。」
 姫に成る。それは月の一族では子供が女に成ることを言う。つまり、子が孕めるようになること。
「我が一族の血の巡りは同じ腹から生まれた同士、またはそれに近い同士繋がれる。俺と月の上姫の母親も自分の父親が相手だったと聞いた。」
「吐き気のする話だな」
「ああ、そうだ。この狂った一族の中で、俺だって同じように生まれながら異端だった。だが嫌悪も吐き気もいつだって感じていた。向けられる蕩けそうな視線は、子供の頃から可愛がった妹のものでは無くなっていた。」

 ただ、女に成ったと言う理由だけで。

「あの頃、子供の頃は二人とも純粋な兄と妹だった。だがあの日、月の上が女に成ったその瞬間にまるで自我に覚めるが如く、否、血が目覚めたのだろうな。純粋な少女だった月の上はまるで淫蕩な女に変わり果てた。」
 妹だった女は最も近い血の男である兄の子種を狂ったように求めた。
 それを見て祖父であり父である男は祭りでも始まったのかと思うほどに悦び踊りだし、そして月下の目の前で従姉妹を孕まそうとした。
 祝いじゃ、祝いじゃ、
 老いた男の声に若い女の嬌声が混じり頭の中でぐずぐずと溶けていった。
 昨夜と同じ顔、姿、声のはずだというのに、月の上姫の瞳は美しい光を失い淫らにぎらぎらと瞬いていた。蕩けそうな声で兄様、と呼び細い腕を月下の首に回し体を寄せ、首筋にいくつも口付けた。
 ぞくりとした、しかしそれははっきりと嫌悪のそれで、しかし震える肌を月の上姫は喜びと取った。
 昨夜月の物が初めてやって来た、破瓜も終えていない少女が娼婦のように男を誘っている。欲望を手玉に取ろうとしている。
 月下の腿を優しく撫でながら、月の上姫はとろとろ甘い声で囁いた。
「良き子を下さいね、兄様」

 ああ、その声を聞いて思った。

 狂ってる、その一族の中で狂っていると言われ続けた俺も、やはり狂っている。
 だから思うのだろう。

 殺そうと。
 自分も含めこの血は燃えるべきなのだと、妹の破瓜を破りながら考えていた。



R18なところをしっかり発揮した!w
基本的に馬乗りされる月下ちゃん
20100123

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