ナルトの問いに、苦しそうな顔をしたまま男が冷えた色の瞳で見上げてきた。 「お前こそ、何者だ。この呪われた地に何の用だ」 首元に当てられた鈍く光るクナイに臆した様子もなく、男は静かに言った。 不思議な瞳をしている。 男の瞳の奥を覗き込むように、ナルトはその目を睨みながらそう思った。 それはあまりに淡く、まるで夜明けの微かな光のような、掴み取るにはあまりに薄くか弱い。不確かで不可解な彩をしている。 「お前、月の・・・生き残りだな?」 「ああ。」 男は潔く頷き、ナルトの顔を顔をしっかりと見つめ、息を詰めた。 「・・・?なんだ?」 「お前のその髪の色・・・。」 「髪?」 ナルトは男の呟いた言葉に、かすかに考え込む。 珍しい金の色。 確かにこれは異端とも言えるもので男が少し過剰に反応したことも頷ける・・・だが。 奥底に一瞬除いた、畏怖。 金の色。 光、の色。 「禍々しい月のようだ」 月。 この場所に巣食う怨念のような絡み付くもの。 「嫌なら、変えることもできるけど?」 「いや、そのままでいい。」 少し笑いを含んだナルトの言葉に男は憮然と答え、クナイを突きつけられているにもかかわらずゆっくりと立ち上がった。 男が立ち上がることによって、身長差が逆転した。 男はナルトよりいくらか年かさで、白い衣に包まれた細い体はしかし傍目にも靭やかで引締まった筋肉が窺えた。 繊細な白い髪が男の首を撫でるのを見てから、ナルトは口を開いた。 「お前は、誰だ?」 「お前こそ誰だ」 お互い瞳を覗き込むように見合いながら、またもとの会話に堂々巡り。 小さな砂塵がどこからか舞ってくる。 それと共に狂気と虚無を孕んだ吐き気を及ぼす程の空気があたりに立ち込めた。 「来るぞ」 爛々としたその瞳で、男が言い放った。 二人瞬時に交互へ逸れるとその残像をかき消すように毒々しい赤が散った。 べしゃりと粘着質な液体が二人が立っていた地点へと滴った。 何かと問う間などありはしなかった。 ナルトと男はそれぞれ武器を構え遅い来る腐った異形を切り伏せるしか術はなかった。 それはまるで人のような形をした物だった。俊敏な動きをするが、その度に身の毛がよだつような臭気を撒き散らし、耳障りな音をベチャベチャと立てた。 異形のどろりと溶けた肉片が飛び散るたびにナルトは不快感を感じ、近づけぬようにクナイを異形のその額に放った。 しかし異形どもは反動を受け倒れるがすぐに立ち上がりまた襲い掛かってくる。 額からぬちゃりと滑って抜け落ちるクナイが癇に障った。 「左胸を狙え。」 「左胸・・・?心臓が弱点と言うわけか」 ナルトはうんざりしたように男の言葉に答えながらまたクナイを放つ。 「そういうわけでも無いんだがな」 小さく笑いながら言う声を聞きながら、ナルトは素早く印を刻み異形たちに業火を放った。 「やつらは心臓が弱点だというわけでも無い。心臓をとられているんだ。その隙間を埋めることで動きが止まる。探しているんだよ、心臓を。生きて動いているものがいれば襲う。同類を生み出そうというのか、それとも心臓をもぎ取ろうとしているのか、どちらかは俺は知らないが。どちらにしてもそれは無駄なことなんだ」 「なぜ?」 刃こぼれのしたクナイを指でくるくると回しながらナルトは訊ねた。 「結局持っていかれてしまうんだ。月の上姫に」 「月の上姫?」 疑問の混じったナルトの声に男は嫌悪感に満ちた表情で答えた。 「俺の妹だ」 「妹?」 じっと見つめていたクナイから目線を上げ、ナルトは立ち尽くす男を見上げた。 「今襲ってきた者共も、俺と彼女の同胞。」 「なにが起こっているんだ?」 「・・・・・・・・・・」 ナルトから見える男の顔は、白い髪に隠れ赤く引き攣れた傷だけだった。その口元は硬い。 「きっかけは、俺だったのかもしれない」 「きっかけ?」 男の微かな呟きにナルトが反応すると男はじろりと睨みつけた。 「その前に問う。お前は何者だ?なぜこの地にやって来た?」 白月。 小さな呟きが聞こえた気がした。 愛する子供に何かあったのだろうか、ふわりと浮かんだ空間で白月はとぐろを巻くような不思議な情景を輝くような白髪の合間から見上げた。 木の葉の様々な禁書などが納められている広大な書庫に白月は一種の結界のようなものを張って陣取っていた。 文献は読み漁った。 しかし彼の月の一族はあまりに希少すぎた。 その血を受けついた起源はなんなのか。 従うべき濃厚な血の力とはなんなのか。 「八方塞か?白月」 闇の中から漆黒の男がその黒から綻ぶように姿を現した。 風の無い不思議な空間の中で、柔らかな黒髪がふわりと揺らいでいた。 漆黒の髪、暗闇の瞳。何もかもを突き放すような黒尽くめの衣を纏った男は端整な顔にからかう様な軽薄な笑みを浮かべる。 やすやすと白月の次元を切り離した結界に入り込む者。 それは白月と表裏を荷う男だ。 「黒月・・・こんな時にナルトから離れたというのか」 きつく睨んでくる白月を鼻で笑って交わし、男・・・黒月は白月が読み漁った膨大な量の書物を呆れたように見回した。 「別に、今は俺が必要な時でもないだろう、しかし無駄なことをしているな」 「いついかなる時も、ナルトから離れることは許さない」 「お前の意見なんか俺には関係ないだろ」 低い声で答え黒月は蔑むような笑みを白月に向ける。 「お前だってナルトから離れてこんなところで二の足を踏んでいる」 「これはナルトの命だからだ」 上品な顔で吠えるように言った後白月は大きな素振りで黒月から顔を反らした。 「そうでなければ誰があの子から離れるものか」 低く呟いた後に白月はすいと美しい指で乱雑に積み上げられた書物とは隔離された一冊の巻物を指さした。 「それは?」 「月の血脈の逸話が描かれたものだ。絵物語ではあるが、きな臭い。どうやらこれぐらいしか成果は上がらなさそうだ。ナルトにそれを」 「自分で行かないのか?」 黒月のそっけない返事に白月は肩を竦めて答えた。 「お前がここの片づけをしてくれるのか?」 いつも言われているんだ。 出したら仕舞う。 全てを元に納めましょう、と。 更新に1年以上かかってました、ね・・・(吐血 20090219 |