男は緊張に震えながら長の家を出た。 手には白い布に包まれた王族の証を刻印された釦がある。 その白い布も元々はルークの持ち物で白地に見事な金糸で公爵家とキムラスカの証が刺繍されていた。 まさかこんな辺鄙の地で尊き王族に遇う事が出来るとは。 それは一生に一度あるか無いかの奇跡に等しかった。 出る前に水を汲もう、と男が水辺に足を向けるとそこには一人の男が立っていた。 「あ、貴方様は」 その髪の色に男はまた驚愕した。 鮮明な赤色、今は寝台に臥している青年よりもずっと暗い強烈な紅の髪が背中に流れていた。 男の声に、赤髪の青年が振り向いた。 その面差しはもう一人の青年に酷似している。明らかに血の繋がりを思わせる容貌をしていた。 「なんだ?」 勤めて低めているような硬質な声が男に問いかけた。 「あ、貴方様は、もしやル、ルーク・フォ・・・ルーク様の所縁の方でしょうか?」 「・・・・・。」 「こ、これをっ」 赤い髪、すなわち王族。 男は膝を着き白い布に包まれた釦を男に差し出した。 「紋章の釦・・・なぜお前がこれを持っている?」 「ル、ルーク様に託されました。恐れ多くも、私にケセドニアへの使いを任せてくださり・・っ」 ルークとは違い上に立つ者の傲慢さと威厳を併せ持つ青年を前にし、男の声は情けないほどに震えていた。 「任とはなんだ」 「ルーク様が、内密に救助を要請したいと・・・」 「内密と言うなら俺に漏らすのはどうかと思うがな」 あ、と男が言葉を途切れさす。 「まあいい。しかしあいつらはまだこんな所でぐずぐずしていたのか。交信にも答えずに既にケセドニアから船で渡ったのかと思っていた。」 眉間に皺を寄せ厳しい顔をしながらも好都合だ、と青年が呟くのを聞きながら男は考えを巡らした。 「お、恐れ乍ら申し上げます。ルーク様はこのオアシスにお一人でお出でになりました」 「一人だと?」 厳しい声色に男が震え上がった。 ルークの今の状況を教えて、自分は無事で居られるのだろうかと不安になる。しかし王族相手に隠匿など出来るはずがない。 「このオアシスにたどり着いたときのルーク様は、満身創痍と言っても過言ではありませんでした。お話を伺ったところ、砂漠の途中から同行されていた方々と離れ離れになってしまい、たった一人で砂漠を越えていらしゃったと・・・」 膝を着いた男の目の前で、青年の黒いグローブに包まれ、硬く握り締められた手がぶるぶると震えていた。 これが怒りからくるものであると男はすぐ察する。 何よりも敬うべき王族を愚弄されたのだ、仕方が無いことだろう。 むしろ怒りに任せ切り伏せられなかったことに安堵した。 青年は頭が痛いとでも言うようにまた眉間に皺を寄せて目をきつく瞑っていた。 そしてなにかを考え巡らした後、瞼を上げる。 「お前は速やかにその命を遂行するためにケセドニアに向かえ。それと、あのく・・いや、アイツは今どこに居る。」 「このオアシスの長の家にてお休み頂いております」 男は青年に長の家の場所を教え、礼を取りその場を後にしようとした。 「あーーーーっ!アッシュ!」 背を向けた水辺から聞こえてきたのは幼い少女の声だった。 男が伺い見ると、黒い髪の華奢な少女が青年を生意気そうに見上げていた。 その後ろに続く長い髪の少女と若い眼鏡の男と金髪の青年もそしてどこかで見たことがある・・・おぼろげな気持ちが引っかかる・・・金髪の少女も微かに不信感と敵意を持って赤い髪の青年を見ていた。 王族を呼び捨てにするとは、子供と言えなんたる不敬だ。 「ちょっとー!イオン様どこにやっちゃったのよ!」 返して!と少女の口から出たのはダアトの敬われる導師の名前。 よくよく見ると少女の姿はダアトの神託の盾の軍服によく酷似している。あんな幼い少女が、軍人? 「そうよ、イオン様を返して頂戴!イオン様を誘拐するなんて貴方神託の盾の兵として恥ずかしいと思わないの!?」 そう前に進み出る美しい顔立ちをした少女もよく見れば神託の盾兵の格好をしていた。 そう言えば食って掛かられているあの王族の青年も・・・・男は混乱しながらもその場を立ち去らずに成り行きを見守っていた。 「それより、アイツはどうした。」 「アイツって?」 不機嫌そうな青年の問いに黒髪の少女がきょとんとした。 「ルークのことかしら?」 長い髪の神託の盾兵の言葉に、男はぎょっとした。 他国の軍人が、敬うべき王族の名を呼び捨てにしたのだ。しかもその表情は微かな侮蔑までも含んでいた。 「それより!イオン様は!」 「それは後だ」 「後って何よ!」 「アイツはどうしたと聞いている!」 搾り出すような声には微かな怒りが孕んでいた。 「ルークは砂漠の途中で逸れてしまったのよ。」 長い髪の女は何の感情も持たずに言い放った。 「まったく、あのお坊ちゃんには困ったものですよ。こんな大事な時にまで迷惑を掛けるとは。これはマルクト・キムラスカ間の和平を繋ぐ大事な任務だというのに自覚が足りませんねえ」 後ろから進み出たのは眼鏡を掛けたマルクトの青い軍服を着た男だった。 「少し目を離すとすぐこれだもんな、昔からちっとも成長してないなあ」 人の良さそうな青年が苦笑いしながら言った。 唯一それを心配そうに眉をひそめたのは金髪の少女だった。 「ルーク、今頃どうしているのかしら。ルークはまだまだ世間を知りませんもの。心配ですわ」 「でも、ルークももう大人だもの。これまで私達と共に短いと言え旅をしてきたのよ、迷子になったくらいでどうにかなったりはしないと思うわ。きっと日が暮れたから野営でもしてそろそろこのオアシスにも着くんじゃないかしら」 女の言葉に男は目を見張った。 彼女等が語っているのは確かにルークのことなのだろう。 しかし王族である彼が、野営の仕方など知っていると本気で思っているのだろうか。 守るべき王族から目を逸らしその姿を見失っておいて探しにも行かない。それはあまりにも軍人としてそれ以上に人として怠慢すぎるのではないか。 「・・・・・・」 なにかを押さえ込むように、赤髪の青年は難しい顔をして黙り込んだ。 「ところでアッシュ、貴方に少々伺いたいことがあったんですが」 「死霊使いが俺に?」 あざ笑うような声色で男は深い緑の瞳でマルクト軍人、死霊使いを睨み付けた。 「貴方の、その髪・・・そして瞳。その顔。」 「見覚えでもあるのか?」 不快そうに青年が言い、死霊使いは黙った。彼の目の内に篭る嘲笑を悟ったらしかった。 「それよりもイオン様!」 また子供が癇癪を起こしたように青年に食って掛かった。 「導師はザオ遺跡に居る。」 「本当!?」 青年の答えに少女達は嬉しそうに声を上げ、男達はやれやれとした表情で青年を見つめた。 「ならばすぐにでもイオン様を救いに行くべきです!そうしなければ和平が成立しません」 「そうだよぉ〜イオン様か弱いもん、今頃絶対よろよろだよー」 「そうですわ!イオン様に何かあればこの和平、危うくなるどころか破綻してしまいますもの」 なんたって悪逆非道なあの六神将が攫ったんだよ!と子供が急かすように死霊使いの袖を引いた。 「おい、アイツはどうするんだ。」 「アイツ?ああ、ルークですか」 頷く青年に目を向け、死霊使いはまたやれやれと人の悪い笑みを微かに浮かべた。 「先ほどティア達が言ったとおり、イオン様は和平のために無くてはならない存在です。これは最優先に救出すべきことでしょう。それに攫われたイオン様とは違い、ルークはつい先日まで私達と旅をしてきたのですよ、そうそう大事に至ることもないでしょう。彼は剣を持っていますし、回復アイテムも持っていました。ところでアッシュ、」 「なんだ」 「貴方も六神将の端くれ、イオン様を攫ったのですからここは手を貸していただけませんか?ルークが居なくてこちらは戦力不足なのです。前衛に立って頂けると嬉しいのですがね」 死霊使いの言葉に耳を欹てていた男はまた驚愕した。 鍛え上げられているはずの軍人が王族を戦闘に立たせていたとは。 「俺にはまだやらなければならないことがあるんでな。断る」 「貴方にその権利があると?」 「お前だって俺に命令する権利があるとでも思っているのか?」 一触即発。 睨み合う二人を回りに佇む人々は息を呑んで見つめていた。 「いいのか?こんなところでちんたらのさばっていて。早くしねえとザオ遺跡からまたどこかに導師が連れまわされちまうぞ?」 にやりと笑った青年にマルクト軍人は呆れたように笑った。 「しょうがないですね、今回ばかりは見逃してあげましょう。確かに時間が惜しいですから。あなたの相手をこれ以上している暇などありませんね」 ならさっさと行け。そう緑の瞳が語っている。 無礼な一行は各々何かを言いたそうに背を向けてザオ遺跡に向かって行った。 「あ・・・の・・・」 その間、隅で黙り込んで成り行きを聞いていた男が震えるように声を出した。 「ア、アッシュ様?」 「ああ」 「あの一団は・・・一体何を考えているんですか・・・」 怒りを越えて、呆れることしか出来なかった。 「俺が知るか。お前もさっさと用を済ましに行け」 「彼らのことも、お知らせしたほうが良いのでしょうか」 男の怒りに滲んだ声がアッシュに問う。 アッシュは男を一瞥した後、彼等が消えた方を憎らしげに睨み背を向けた。 「好きにしろ」 敬語・謙譲語・丁寧語わからない〜(って話をしたら謙譲語、丁寧語、尊敬語は敬語の種類だとパザーに言われた、・・・そっか・・(´・ω・`) お勉強本を買おうかなとちらりと決意(ちらり? アッスさん赤毛晒してうろうろするなよw PTの中で一番動かしやすいのはアニス、ええまあ、おこちゃまが一番動かしやすいですね 反対にお姫様が影の薄いこと・・・慌てて会話につっこんでいかせてますw ティアとガイは、生理的に無理(ひどいよ自分 さて、早々にストックが無くなりました この後どうするか・・・うむむ 20090406 novel ← |