柔らかい栗毛と甘いブラウンの瞳を、猫のように細めて華奢な権力者はにっこりと嗤っています。 成人男性とはとても思えない若々しい、と言うよりも幼い顔。子供のような肌、声、体。 そのくせ意地悪で、無邪気で、無垢で、残酷で。 細く小さな指の通りに何でも動くことを知っているのです。 そんな彼を見つめて主人は酷く楽しそうに微笑むのです。 なぜか、この土地には私たちの主人と対等に接することの出来る人々がやけに多いのです。 その一人が彼、向かいに屋敷を構える富豪デーデマン様。彼はこのフラン○フルト一の富豪と言われその権力も絶大なものです。 酷く童顔、時々二頭身なところが謎を呼びますがそこは類は友を呼ぶ方式。その最もな存在は私たちの主人そのものだからです。 「友達、とは少し違うような気もするけどねえ」 やれやれと笑いながら主人が私たちに背を向けたまま呟きました。 「え、いきなり何。誰と話してんのさっ」 空かさずつっこむデーデマン様。こんな風に主人に気兼ねせず話すことの出来る存在は稀有なのです。(そして喜ばしいのです) 「で、まだ報告は上がっていないのかい?」 「まだだよ。と言っても確実に君のほうがぼくよりも先に情報掴めそうな気がするんだけど」 「まさか!使いに出したのはセバスチャンなんだろう?真っ先に君に報告がいくだろう?」 「いや、なんか、ユーゼフの情報網って人の介入できない域だし・・・」 うんざりしたようにデーデマン様は呟き、今朝私たちが焼き上げたさくさくのクッキーをせっせと口に運んでいました。 「でも彼は君のとこの子だからね、忠実に君の元に帰って来ると思うよ。って言うか僕が偵察(と言う名の覗き見)に放った式ものされちゃったみたいだしね。彼が来るまで僕も詳細は分からないよ」 内に黒いものを孕み、しかし底抜けに明るい笑顔で主人は微笑みました。 式ってなによ、あんた。と、いつものようにデーデマン様は呟き、しかし深くは聞いてこられませんでした。これが、正しい主人(と私たち)に対する接し方と言う物なのでしょう。 「もうやんなっちゃうねー仕事仕事でさー」 頭の上に腕を伸ばしながらデーデマン様は気怠げに仰いました。 「しかもユーゼフが絡んでることなんて、ろくなもんじゃないよね。セバスチャンはどうだか知らないけど、ぼくに全然利益がない」 「でもセバスチャンの利益は結局は君の為になるだろう?」 彼らはアンバランスな主従であっても、結局は親身一体ということなんでしょうか。(ほんのすこしうらやましいのはヒミツですよ) 「そうならいいんだけどね・・」 デーデマン様は自信喪失と言う様に項垂れながら言葉を返しました。 仕事は簡単、彼らが手にするモノに、愚かな人間が汚れた手で腕を伸ばしてきただけのことです。 奇麗好きな主人たちはもちろん、埃ひとつ許すことはしませんから。これはちょっとしたお仕置き。(ただし愚かな人たちはかわいそうですが命は無いかも知れません) 「この芥屑どもがっ」 低い美声で吼えるように言い、セバスチャンは哀れに泣き崩れる中年男性を瓦礫の中に放り投げました。 人里はなれ・・・ているかは微妙な場所ですが、林の木々にさえぎられたこの場所は人々の目に触れることもなく、銃声も届きません。 悪巧みをするのに持って来いの場所であり、ついでに人知れず一暴れするのにも適した場所とも言えます。 それを理解しているセバスチャンはここぞと物騒な火器を振り回し、縦横無尽に暴れまわっております。(ストレスが溜まりに溜まっているんですね) 私たちはどなたとも言えませんが同情心を抱きました。もちろん上辺だけですが。 しかし見事な暴れっぷり。ついつい小さく拍手してしまいそうですね。(パチパチ) 「暇そうだな、例の書類は見つけたのか?」 瓦礫の上で肩越しに青い瞳でちらりとこちらを見る姿はさながらハードボイルドな映画の世界からそのまま飛び出してきたようです。すこし身なりが良すぎますが。 「こちらです」 到着早々セバスチャンは大暴れした所為で辺りに形を残している物はわずかです。(主従って似るものなんでしょうか) 数枚の書類をセバスチャンに渡すと、彼は涼しげないつもの表情でその書類に眼を通すとそれを大事そうに懐に仕舞い込み、そしてこの地にもう用は無いとばかりに背を向け言い放ちました。 「火を放て」 (鬼ですね) いつまでも聞こえていたこの地の主人の男の啜り泣きがいつの間にか漢泣きに変わっていたのでした。 セバスチャンの帰宅はそれから数時間のことでした。 通常ならば日をまたぐであろう帰路を数時間で済ませてしまうとは・・・裏の道というものを使ったようですね。(何かと問うのは愚問と言うものです) まず、デーデマン邸に戻りご主人様に報告・・・とは行かずにセバスチャンはまっすぐに向かいのこの屋敷に足を向けていました。 無断で玄関を通り過ぎる前にちらり、と肩越しに目を向けたのはデーデマン邸・・・の跡地。 「まあ、一日留守にしていたからな」 と誰にとも無く呟く声には低い響きの中に色濃い疲労が。 「お察しいたします」 「ぬかせ・・・・・・」 セバスチャンはゆっくりと玄関の扉を開き堂々と屋敷の中に足を踏み入れました。 迷いも無く向かう場所は私共の主人の執務室でした。 「入るぞ」 ノックと同時に扉が開きました。 「おかえり、セバスチャン!」 デーデマン様がカップから顔を上げて笑顔でセバスチャンを迎え入れました。 「順調かね?」 主人の言葉にセバスチャンは何も言わず数枚の書類を卓に叩き付けました。 目線は苦笑いしているデーデマン様から一時も放さずに、彼はその前に立ち見下ろしました。 「屋敷の参上の原因はなんだ?」 「え、えーと。なんかもうお祭りカーニバル?みたいな。目玉は『モンドリアン・ヘイヂとアジアン淑女(と書いてレディと読む)森永の大再戦(デイビッド命名)』」 にへら、と擬音の付きそうな笑顔を向けてデーデマン様は石像の如く威圧的なオーラを発しながら動きを止めたセバスチャンを見上げていました。 「今夜の宿はどうするのですか」 「えーと・・・」 「夜露に濡れながら寒空の下瓦礫の上でひもじく縮こまってることにでもしたのか」 「え、えーと」 見下げるセバスチャンの瞳は恐ろしいほどに凍りついた青。それを見上げデーデマン様は珍しく恐怖を感じているようでした。 「まあまあ、セバスチャン。それで僕がデーデマンに屋敷を建て直すまでここに滞在したらどうかと誘ったんだよ」 「そんなご迷惑をおかけするわけにはなりませんので」 と、早口にそう言いながら敬うべき主人であるはずのデーデマン様の襟首を掴みあげて小脇に抱えてしまいました。 「なんだい、せっかく楽しい夜を過ごそうと思っていたのに。相変わらず無粋な子だねえ」 早足で部屋の出口に向かっていくセバスチャンに主人はにこやかに手を振っていました。 +++ フラン○フルトでも五本の指に入ると言われている豪奢なホテルの最上階の部屋に入室するとセバスチャンはデーデマンを毛足の長い絨毯の上に投げ捨てた。 「いだっ」 思わずあがった自分の敬うべき主人の悲鳴になんの反応も示さずにセバスチャンはよっこいしょ、と言った訳でもないがそれなりの疲労を感じさせながら一人がけのチェアに深く腰掛けた。 「ほかのみんなは?」 「フロアは違いますが、このホテルに宿泊させています。呼び出しますか?」 「いいよ、今日は皆とっても疲れてるからね」 小さく笑いながらデーデマンも複数が腰掛けられるソファにゆっくりと座りテーブルに添えられていた菓子をつまむ。 いつの間にかセバスチャンにまるで睨まれるように見つめられていることにデーデマンは気づいた。 「な、なに?」 「いいえ、」 小さなため息(疲労と苦労が滲み出ている)と共に短く返答し、セバスチャンは深くソファに身を沈めた。 明らかなお疲れモード。 デーデマンはゆっくりとセバスチャンに近寄り自分よりも大きい、しかし繊細な彼の手に触れる。 「えっとね、お疲れ様」 上目遣いで労う幼い主人に、セバスチャンは相変わらず無関心そうな無表情で心中だけで呟いた。 (まあいいか) +++ 「「ぷっ」」 変わらず無表情の使用人二人が同時に噴出したのを見て、ユーゼフはおや?と首をかしげた。 「なにか面白いものでも見れたのかい?」 「「ええ、まあ、」」 相変わらずの淡々とした答えの中に明らかに笑いが含まれている。顔は無表情だが肩はひくひくと微かに震えている。 よほどのツボを突くものを見てしまったのだろう。 「で?どんな面白いことがあったんだい?」 彼らの主人がにっこりと微笑み、双子の使用人は顔を見合わせた。 end 松本勇輝様からリクエストいただきました「アルベルト(or)(and)の観察日記!」です ど こ が ? と言う声が聞こえてきそうです・・・ そして 時 間 か か り す ぎ じ ゃ ね ? と言う声も・・・・ リクエストいただいてから三ヶ月もかかってしまいました(しばらくどころの話じゃない) 土下座しても足りません・・; 生態不明なあの双子の・・・とか考えていたら本当に生態不明というか得体の知れないものになってしまいましたね ただ、セバスチャンは心労極限に至ってる時デー様が居ると「ま、いいやー」て思ってくれると萌える・・・ そしてユーゼフ様はそれを得体の知れない笑顔でにこにこ見てる・・・・あれ?セバデー←ユーはどこに・・・ 相変わらずに稚拙&駄文(どよーん・・)ですが、萌えていただけると嬉しいです ついでにお持ち帰りなんてされちゃうと昇天してしまいそうです 背景画像は素材サイト七ツ森様からお借りしました 画像も一緒に持ち帰りたい場合はそちらからのDLをお願いいたします 20081113 count |