セバスチャンが自分のネボッケーを自覚してプチ大魔王が覚醒するようになってから幾数月。
 それからと言うもの僕やA達以外だけではなくヘイヂやユーゼフまでもがうたた寝しているセバスチャンを放って置くようになった(ユーゼフはただ単に飽きだとかただ面倒臭がったからだろうが)

 しかし、しかし何故だろう。

 ぼくはなんだか気色悪い・・・その割には内に何かとてつもない期待を秘めた笑みを浮かべる使用人A、B、メイドのツネッテ、コックのデイビッド、ついでに未開の同居人(?)ヘイヂを見回した。
 そして最後に視線が向ったのはぼくの手元の割り箸の数字。

 それはある昼下がりのことだった。
 久しぶりに平和で、陽気で、静かなデーデマン邸であった。



「王様だーれだ」

 声を合わせ言った後に、皆はそれぞれ自分の手に持った割り箸の先を見つめた。
「あっ!」
 声を上げたのは使用人Aだった。
 幼いその顔は喜びの色に染まっており、瞳はなにやらきらきらと輝いている。
 その顔を見て、その他の面々はうわぁ・・・と嫌な予感を募らせる。
「じゃあ・・・!3番の人!」

 びくぅっ!!!!
 Aのはきはきとした声に肩を震わせたのは彼らの主人、デーデマンだった。
 一瞬にして他の面々から同情の眼差しが向けられたが、デーデマンよりも偉い地位についてしまったAはそれに気付かなずなにやら眉間に皺を寄せてまで考え込んでいる。
 ほんの少しの間唸りながら考え込んだあと、Aははっ!と何かに気付いたように顔を上げ、お馴染みお手製『セバスチャンパーフェクトガイド』を懐から取り出した。
「実はセバスチャンがプチ破壊王になるようになってからのデータがものすごく少ないんだよねー」
 輝く笑顔で喋るAをデーデマンは顔色を青くして怯えながら見つめていた。
 そして・・・

「3番の人は眠っているところを起こされたセバスチャンがどんな反応を返すのか実験体なることー!」

「ちょ・・・・・っと!それはあまりにも過酷過ぎる・・・!」
 反論しようと立ち上がったデーデマンの肩に、ぽんっとBが優しく手を置いた。
「無駄です・・・、あいつ生粋のMですからそのぐらいは屁でもないちょっとした罰ゲームレベルにしか思っていません。それに、セバスチャンのこととなると異常なほどの探究心だ、執着心だのが出てきますからね」
 そう言って同情のうかがわせる瞳でBはデーデマンを見つめていた。
 しかしその奥底に、デーデマンはしっかりと好奇心の色を見つけてしまう。

 見回してみるとデーデマンを哀れだとばかりに見つめる面々のその目にも、隠しおおせる事の出来ない好奇心の輝きが・・・・。

 デーデマンは崩れるように座り込み項垂れ、そして小さく呟いた。
「ここに居るのは鬼ばかりなのか・・・」

 震えるその声を、彼らは聞こえなかった振りをした。



 決戦の時がやってきた・・・とでも言うのだろうか。
 なんとなく背後にゴゴゴ・・・と地響きのような音を立ててデーデマンは静まった廊下に立っていた。
 大きな瞳で睨むように見上げるのはセバスチャンの部屋に通じる扉。
 ちらり、と横目で視界の端っこを窺うと、廊下の角の方からこちらを窺う五つの人影が。
 わくわくとした瞳に混じって何故か冷静でしかし愉しげな眼差しの男も立ってこちらをにこにこと見つめていた。
 昼には居なかった筈のユーゼフがなぜここに・・・。
 まあ多分ツネッテからブラックファルコンに渡った情報を聞いてやってきたのだろう。彼がこんな面白そうな(他人から見ればであり僕はまったくおもしろくない)イベントを見逃すはずが無い。
 一度セバスチャンの風邪っぴきを見逃してからというもの余計に過敏になっているようだ。

 とにかく、さっさと終わらせてしまおう・・・。

 緊張を鎮めるように大きく息を吐いて、デーデマンはドアに手をかけ物音を立てないようにドアをそおっと開けた。
 目の前に広がるのはよくよく考えてみるとシングルではありえない面積のベッド。(セバスチャンを心地よい眠りにお誘いするためにゆったり眠れるサイズになっております)
 柔らかそうな白い掛け布団が微かに上下する山を作っていた。
 流石のセバスチャンでもこの時間には寝ているか・・・とデーデマンが見上げた時計の示す時刻は深夜4時近い。
 なんとなくデーデマンの顔には疲れと目の下にはうっすらと隈が出来ている。
 王様ゲームをやってから今日一日ずっと、使用人たちの期待に満ちた視線の圧力に晒されてきたのだ。
 しかもあの後鬼のようなセバスチャンにまた椅子と机に縫い付けられ強制的に何百という書類を処理させられた。(しかもやはり視線を感じながらの作業だった!)
 疲労困憊。
 いまの自分には良く似合う言葉だと思う・・・。
 デーデマンは静かに部屋に足を踏み入れ、セバスチャンが眠るベッドの枕元に近づいてみる。
 毛布の合間から艶やかな黒髪が散らばるように覗いている。
 そっとそこに顔を近づけようと屈み込んで見る。
「・・・・・・っ」
 同時にもぞもぞと布団が蠢き、ものすごい勢いでその中からこちらに向って伸びてくるものが視界に飛び出してきた。
 デーデマンは思わず目を硬く瞑り、無意識で衝撃に耐えようとする。
 しかしその衝撃はいつまで待ってもやってこない。その代わり、デーデマンの右手首にしっとりとした温もりが絡みつく。
 それは力強くデーデマンを引っ張ってゆき、抗うことを許されずにぼふんと音を立てて頬が柔らかなクッションの一つに当たった。
「もが・・・」
 何事!?と右手首に目をやると、デーデマンの細い手首にはしっかりとした骨太の細長い手ががっしりと絡まるように掴んでいた。
「セ、セバスチャン?」
 起きているの?
 デーデマンの声に応える様にもぞりとまた白い布団が上下する。

 出てくるのは、破壊王型ネボッケーか・・・!それとも新種の何かなのか・・・!
 ドッドッドと鼓動がまるで耳の奥で響いているようだ。
 部屋の外の彼らもなんとなく緊張しているのか張り詰めた空気を感じる・・・気がする。
 デーデマンはそっと、震える左手で黒髪のはみ出る毛布を少し退けてみる。

 わ・わ・わ・わ・わ!

 そこには。
 黒髪がばさりと顔を隠しているので表情は見えない。口元と尖った顎だけが覗き、首筋が伸びて骨が浮いていた。
 白いシャツから覗く鎖骨と筋が微かに動く。
 もぞ、とまた動き、絹糸のような黒髪が額から滑りセバスチャンの美貌が覗く。
 ゆっくりと瞼を押し上げた睫毛に縁取られた深い青の瞳は一瞬虚ろにどこかを見て、そしてやっとピントが合ったのかデーデマンを見た。
 そして一瞬の間を置いて、セバスチャンはふわりと微笑んだのだ。



 は、破滅王じゃない!
 と言うか、ひ、久しぶりの・・・・!

 綺麗なお兄さんは好きですか?(にっこり笑顔)型ネボッケー!!

「こんな時間にどうしたんですか?旦那様」
 昼には絶対に聞くことなんかできないだろう、優しい声色で語りかけてくる。
 うう、なんて耳ざわりの良い・・・・!
「ああ、お一人で寂しかったのですね?」
 一人感動に打ち震えているデーデマンを無視して、セバスチャンは一人でそう早合点すると、蕩けるような笑みを浮かべ掴んでいたデーデマンの腕を力を込めて引っ張っていく。
「うわ・・・っと」
 またもぼふんっと音を立ててデーデマンはベッドに倒されてしまう。
 いっそうセバスチャンの顔を近くで見ることになり、普段では見ることの出来ない柔らかな美貌を目にしてデーデマンの顔に熱が集まってくる。
「ほら、もっと近くにきてください。寒いでしょう?」
 デーデマンをセバスチャンはにっこりと笑みながら見つめ、彼が固まっているのをいい事に小柄な体を自分の包まる寝具の中に引っ張り込んで包むように抱きしめる。
「セ、セバスチャン?」
 間近の白い笑みを浮かべるセバスチャンを見つめながら、デーデマンは途惑ったように彼の名を呼んでみるが、やはり返されるのは笑みばかり。
 デーデマンに名を呼ばれたからなのか、セバスチャンはより一層煌びやかな笑みを浮かべ、デーデマンのふっくらとした頬に軽く何度もキスを落とし、何度目かに唇に触れてきた。
「!」
「お休みの、キスです」
 穏やかに言い、セバスチャンは口付けの余韻に酔いしれているデーデマンの細い体を柔らかく、しかししっかりと力を込めて抱きしめる。
 それは、逃がしはしないと拘束するように包む。

「え、あ、ちょっと待った」

 はた、と気がついたデーデマンが小さく声を上げた頃にはもう遅い。
 セバスチャンはデーデマンの頬に自分の頬をぴったりとくっつけ、穏やかな寝息を立てていた。
「え、う、うそ・・・」
 デーデマンは身動ぎしてみるがしかしがっしりと抱かれた体は数センチも動かない。まるで固まったかのように寝入ってしまったセバスチャンの腕から抜け出すことが出来なくなっていたのだ。

 こ、この格好でこのまま朝まで待たなければならないのか!

 目覚めた時、セバスチャンはデーデマンの姿を見つけどうなるだろうか。
 まさか枕元に忍ばせてある鞭で八つ裂き、いやそれともネボッケー破壊王降臨か・・・


 唸りながら嫌な予想ばかりが頭の中をぐるぐると廻る。

 ああ、でも。


 デーデマンは穏やかに眠るセバスチャンを見つめた。

 この顔を見ているとなんだか何もかもどうでも良くなってくる。
 これが惚れた弱み?

 朝、どうやって言い逃れようかな。

 そう考えながら、デーデマンは今度は自分からセバスチャンの方へと身を寄せた。
 ほんの少し体をずらし、セバスチャンの胸元に額を押し付けてみた。
 ゆっくりと聞こえる、力強い鼓動がまるで子守唄の様にデーデマンを微睡みに誘う。
 はふ・・と小さく欠伸をして、デーデマンは瞼をゆっくりと閉じた。





 その後、朝になり寝起きで不機嫌なセバスチャンに布団から蹴り出され、デーデマンは強制的に目覚めさせられ、睡眠時間が全く足りなかった彼が全くその日一日使い物にならなかったのは言うまでもない。(しかし時々やけに幸せそうな目をして遠くを凝視していてセバスチャンに気味悪がられいつもより多く休憩の時間をもらえた)
 セバスチャンが破壊王にならないことを知り、A、ユーゼフ、デイビッド、デーデマン父が早速その日の夜にセバスチャンの寝所に忍び込んでみたらしい・・・・が。




 物音一つない深夜。
 デーデマンはやっと与えられたフカフカのベッドにダイブし、久しぶりの穏やかな眠りに落ちようとしているところだった。

 うつらうつら、とだんだんと瞼が下がり心地よい睡魔が体と意識を混濁へ沈めていく。

 しかし・・・・・・・・



 突然形容し難い爆音とともに、地響きか!?と屋敷全体がぐわんぐわんと揺れた。
 窓硝子は衝撃で木っ端微塵に割れ、部屋に置かれた硝子細工の美しい花瓶や同じく衝撃で割れた鏡の破片と共に部屋中に散乱する。
 だるい体に鞭打ち、デーデマンは起き上がり震源地というか爆心地というか・・・セバスチャンの部屋の方向を見つめる。
 閃光ともうもうと立ち昇る煙・・・荒れた室内を鈍く見回し、デーデマンはボスンっと枕に頭を倒れこむように落とした。

「お、お願いだから寝かせて・・・・・」





 それから数日間、懲りぬことなく毎晩誰かしらがセバスチャンの寝室に忍び込み、破壊王が覚醒する夜が続いたことは言うまでもない。

 セバスチャンとデーデマン(一部を覗くその他多数)の安眠は、しばらくは遠いものとなった。



 END


結娜様からのリクエスト「ネボッケーセバに襲われてデーさんピンチ!」です
あんまりリクに沿えていない気が、ものすごくするんですが・・・!
デー様にだけは破壊王覚醒せず無防備☆なセバを描きたかったんですが、どこで何を間違ったのか・・・・
ピンチなのはデー様たちの安眠のようです・・・(汗)
駄文ですが、気に入ったら貰ってやってください
背景は素材サイト様七ツ森からお借りしました。


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