あ、チャイムが鳴った。

しかし教師の口は止まらなかった。
いつのまにか教科書は教卓の上に置き去りだ。
教科書に書いていない細かいことを面白おかしく聞かせてくれるこの教師は確かに評判が良い。好きなことを職種に選んだのだろうその姿勢は生徒に受け入れられがちだった。
でもこればかりはちょっと困る。
貴重な昼休みが削られていく。
普段ならば別にいい。
でもよりによって、この今日である必要は無い。

なんか苛々してきた。
シリスはその気持ちを押し込めるように窓の外を睨んだ。
三階から見える空は雲一つ見当たらない濃い青の空だった。
昨日の彼の着ていた上着と同じ色だ。
自然と口元が緩んでしまう。
あの服を着ている彼は何度も見たことがある。しかし、昨日からいままでとは違う感情が生まれている。
あの青を見るたびに思い出すし、恋しくなり胸がどきどきしだす。

五分後、やっと授業は終了した。
やれやれ、とみんなの空気が伝わってくる。
(ぼくはそれを通り越していらいら、だ)


声をかけられても知らん顔でざわめく教室を抜け出すとシリスはまず意中の相手、テッドの教室を覗き込む。
案の定騒がしい教室はそれでも人が疎らですでにみんなだらだらと食事している最中だった。
お目当ての鳶色の短髪は見つけられない。
しばらくきょろきょろと教室内を覗き込んでいると、見覚えのある黒髪の少年がこちらを見た。
「よっシリス」
顔の横で掌を見せてくるのはテッドとの共通の友人の一人だった。彼はテッドの一番の親友を自負している幼馴染みらしい。
シリスも同じように挨拶を返すと彼は食事の途中にもかかわらず箸を(まるで)放り投げ(るように机に叩き付け)席をを立ってこちらにやってくる。
堅苦しいほどの格式ある家の出身だというが、奔放過ぎる行動だ。
「テッドは?」
「こっちにはいない。一緒に飯食うって約束してたんだろ?」
シリスの問いに彼は人の悪いニヤニヤした顔で答えてくる。
この顔は昨日のことを知っているんだろう。
もちろんそれを話したのはテッドだろう。
幼馴染み間ではなるべく隠し事はしない。と約束をしていると彼から聞いたことがある。すばらしい友人間だとも思うが、これは頂けない。
テッドは教育する必要があるな、と色の乏しい顔の裏でシリスはそう考えた。
これから最も近しい場所に彼と向かい合うのは自分なのだ。
「嫉妬?」
「煩いな」
図星を突かれてつい邪険に言ってしまう。
人の機微に聡い生徒会長様はそれを見てまた人の悪い笑みを浮かべる。
いつもならこの上ないほど気の合う相手も今は忌々しいだけだった。
「テッド待ってるし、もう行く。食事中ごめんね」
口早にそう告げる。

テッドによろしくぅーなんて言葉を背中に聞きながら廊下を猛ダッシュした。

その後、廊下を走るなと教師に追いかけられたり(お前が走るな)のんきな顔した主人スノウにほのぼの声をかけられたり(ノンストップで踏み潰してきた)様々な逆境を乗り越えて階段を駆け上り、やっと屋上にたどり着いたのはもう昼休みも半分を過ぎた頃だった。


扉の前に立つ頃にはせわしない呼吸に肩が大きく上下していた。
立ち止まって息切れと共に焦りを沈める。

いつでもにこにこしている、とは言い難いがなんだかんだ笑って許してくれるテッドだ。
今回も腹を立てているだろうけどきっとシリスから謝罪の言葉を聞けばすぐに許してくれる。
彼は変なところで聞き分けの良い大人の部分を持っているのだ。

そっと扉から身体を滑り込ませるように屋上に入ると、柵に両手を付き空を見上げるテッドの背中が見えた。

柔らかそうな鳶色の短い髪が風に揺れていた。
すっと伸びた背筋、分かり辛いけどそれは彼の内面そのまま。

「テッド、」

「お、」
「ごめん、遅くなって」
ゆっくりと近づきながら謝ると、テッドはすぐに許しの笑顔を浮かべる。
「いいって、ここ来る前に覗いたけどあいつだったんだろ」
「え、知らなかった」
いつのまに、隣りに並びながら聞くとテッドはにやりと笑った。
あ、ちくしょうアイツに似てる。
「お前ずっと窓の向こうばっか見てたもんな。」
そこを見られていたのか、とシリスは苦笑いを浮かべて柵に背中を預けた。
「テッドご飯はまだ?」
「もちろん待ってた」
「ごめん」

申し訳なさそうなシリスの声にテッドは笑い、その場にべたりと座り込んだ。
シリスもその隣りに座り、手に持っていた弁当箱を袋からとりだす。

蓋を開けたシリスの弁当箱の中をテッドが横目に覗き込む。
「すげえ寄ってるな」
「ダッシュしたからねえ、」
でも味が混ざるような汁物は無い。
朝の自分はこれを見越していたのかもしれない。

シリスとテッドは二人そろって手を合わせた。
「いただきます」
「いただきます」

そして二人同時にくすりと笑った。
いつもと同じ、「いただきます」
いつもと変わらない有り触れたお弁当。
いつもと同じの屋上、青空。

でも、何かが違う。
いつもと同じことがとても新鮮に感じる。


だって僕たちは、





end


ゆんみん様からいただきましたリクエスト
「現代パラレルで、高校生なテド4」です
現代高校生パラレルーーー!ってことで昔考えた設定引っ張ってきました
てっつんは生徒会サイド4様は風紀委員サイドに所属している設定です
まあそこらへん、生かせてませんけどね!(爆)
これでいいのか?いいのか?とか内心疑問ものなんですが(おい
ゆんみん様に捧げます

背景画像は素材サイトSky Ruins様からお借りしました

20081121

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