「あれ? いつの間に家に帰ってきたの?」
 デーデマンが目覚めると、そこはいつもの自宅だった。しかし、デーデマンには帰ってきたときの記憶はおろか、パーティーに参加している最中からぷっつりと記憶がない。ベッド脇に立っているセバスチャンに訊ねると、「ついさっきです」と返事が返ってきた。すると、セバスチャンの背後にある壁が淡く発光し、その壁からユーゼフとアルベルトが出てきた。
「人の寝室に抜け道を繋がないでくれるかなぁ?」
「あはは。今回だけだよ。寝ちゃったデーデマンを送るのに馬車じゃかわいそうかなーって思ってね」
「なに? じゃぁ、僕はユーゼフの抜け道を通って帰ってきたってこと?」
「そうだよ」
 ニコニコと笑うユーゼフはいつもどおりだ。違うのは、アルベルトの顔色が優れないということ。
「アルベルト君、調子悪いの?」
「私は大丈夫です。それよりも、デーデマン様のほうが顔色が悪いようですよ」
「え、本当?」
 アルベルトに声をかけたデーデマンだったが、逆に自分の顔色が良くないと言われてしまい、ベッド脇に立つセバスチャンを見上げて首をかしげた。
「えぇ、本当です」
「デーデマンは、パーティーの最中に倒れちゃったんだよ。だから、早々に屋敷で休んだ方がいいだろうってことになってね」
 嘘八百のユーゼフの言葉だが、デーデマンには記憶がないためにそれを信じるしかない。
「さぁ、早く寝なさい」
 母親か乳母の言葉のようにセバスチャンが言うと、デーデマンは大人しくベッドに横になった。すると、一気に気だるさが襲ってきて、デーデマンは意識を失うように眠りについたのだった。



 場所は変わってユーゼフ邸。
ユーゼフの執務室に三人はいた。
「さてと。彼らの処分はどうしようか?」
「こちらで出来ることはやっておきましょう。貴方は――」
「デーデマンに不埒な考えを起こす連中を片っ端から悪夢に遭わせてあげるよ。――この件に関しては無償で」
 ユーゼフは闇に生きるものの笑みを浮かべてセバスチャンを見た。セバスチャンもまた、裏に生きるものの笑みを浮かべていた。アルベルトは申し訳なさそうに俯いているのだった。
「アルベルト君。君はデーデマンを助けようとしてくれてたんだね」
「お力になれず、申し訳ありません……」
 いつも以上に暗い声でアルベルトは頭を下げた。
「セバスチャンにも迷惑をおかけしました」
「いや、かまわない。アルベルトの失踪がなければ、今回の件に気付くのはもっと遅かったかもしれん。気にするな」
「……ありがとうございます」
 アルベルトはもう一度、深々とセバスチャンとユーゼフに頭を下げたあと、ユーゼフの執務室を出て行った。入れ替わりに入ってきたのはロベルトだった。彼は主と客をもてなすために紅茶と茶菓子を持って入ってきた。
それを手際よく二人に渡し、アルベルトと同じく定位置になっている場所へとひっそりと移動したのだった。
「じゃぁ、計画を立てようか?」
 いつも以上に濃い瘴気を発するユーゼフ。その瘴気は向かいにあるデーデマン家にまで届き、Bは仕事をこなすことが出来なくなるのだった。



〜END〜



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