「ねぇ、セバスチャン。アルベルト君知らない?」
 ユーゼフの付き人としてやってきたアルベルトの姿が先程から見当たらないらしい。
人外の能力を持ってすれば見つけ出すのも容易いだろうに、ユーゼフはセバスチャンに態々訊ねに来た。現在地はパーティー会場である大広間だ。セバスチャンも浮き足立つデーデマンに「大広間から出ないこと・知った人からでも食べ物飲み物を貰わないこと」を条件に野放しにしていた。ユーゼフはアルベルトを呼べば何処からともなく現れることを知っているので端から一人で客の一人と話していた。
だが、ここで異変に気が付いたのだ。
アルベルトを呼んでも現れない。人外の方法を使っても同じ。それどころか、人外の方法を使っての意識の接触すらない。
「私が知っているわけないでしょう」
 何処となくイラつきを滲ませながらもセバスチャンは答えた。
「まったく、何処に行っちゃったんだろう? ピーターの影響を受け始めてるのかな……」
「案外貴方に愛想をつかせたのでは?」
「それはないよ。だって、僕が生みの親だもん」
 サラリと『魔術の産物アルベルト説』を肯定したユーゼフに、『あぁ、やっぱり』と思ったセバスチャンだった。
「まぁ、あの子なら大丈夫でしょ。それより、デーデマンは?」
「会場の何処かに居るでしょう?」
「それが、会場から気配が消えてるからこうして訊ねに来たんだよ」
「会場から気配が消えてる?」
 ユーゼフの言葉に僅かに目を見開いたセバスチャンは、表情に何処か焦りを滲ませて会場を見渡した。しかし、このパーティー会場は大広間。何処からかオーケストラの団体も招いての盛大なパーティーを開けるだけの巨大な広間である。加えて政治に精を出すぼんくら貴族がここぞとばかりに集まってきているために、会場全体からたった一人を見つけ出すことは無理なことであった。
「……本当に居ないんですか?」
「僕がデーデマンの気配を見逃すわけがないじゃないか。それに、……どうもおかしくてね」
「何がですか?」
 急に声のトーンを落としたユーゼフに、セバスチャンも知らずに声を潜める。
≪誰が聞いているかも分からないから“こっち”で話すけど、……デーデマンの気配がぷっつりと消えてるんだ≫
≪どういうことですか?≫
≪自分で広間を出て行ったわけじゃないってこと。自分から出て行ったなら、少なからず残留思念が残ってるんだけど……≫
≪それがない、ということですね?≫
≪そして、それが消えた瞬間にアルベルト君も一緒に消えちゃったみたいでね≫
 傍から見たら、壁の花になっている二人の美丈夫だ。もちろん、世間話を続けている。だから、二人が一緒に居ることを不審がるじんぶつは居ない。
≪何者かに連れて行かれた、ということか≫
≪それも、意識がない状態で、ね≫
≪怪しい人物は?≫
≪君と同じ人物に目をつけていると思うよ。ただ、今回はこちら側の人間も手を貸しているみたいでね≫
 ユーゼフが言うこちら側の人間とは魔術に精通する人物ということだろう。だが、このパーティーに集まっている貴人には、ユーゼフのように闇に染まっているような人物は見当たらない。どうやら、魔術を使える人間を従えたものが紛れ込んでいるのだろう。
 闇組織は裏組織と同じく、それに関わっている人間同士がそれと知っているとは限らない。まぁ、トップに立つセバスチャンとユーゼフは別なのだが。つまり、同じ闇に属していて、なおかつ表世界で友人として和気藹々としている二人の人物が、実は所属こそ違えど闇に巣食っている、ということはよくある話なのだ。
≪ということは、闇にも裏にも手を出している馬鹿貴族が動いたと?≫
≪少なくとも、その手の内に魔術を扱う人間が居ることは確かだろうねぇ。たぶん、魔術でデーデマンを操って会場から連れ出したんだろう。それだと、本人は眠った状態に陥り、体は他人の意のままに動かすことになるから、残留思念は残らなくなっちゃうんだよ≫
≪……俺一人で探し出すのは至難だろうな≫
≪だと思うよ。僕でも探しあぐねているからね≫
 二人がひっそりと視線を交し合ったあと、セバスチャンはニッコリと笑って最後にこう言った。
「協力していただけますか、ユーゼフ様?」
「もちろんだよ」
 二人の営業用スマイルに悩殺された淑女たちはどれ程居ただろうか。



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